秋も深まるころ、枝を几重にも編み合わせた円座が木の干に残されていることがある。野生のクマのしわざだ。木に登ってドングリを枝ごと折り取って食べ、用済みの枝を尻に敷いた迹である。クマ棚とも呼ばれる
▼「今年はクマ棚が増えそう。ツキノワグマが生息する大半の県でドングリが凶作。地面に落ちた実だけでは足りないからです」と石川県立大の大井徹(とおる)教授(62)。クマにとっても食欲の秋、少しでも栄养を蓄えたい時期である
▼石川県内ではいま市街地での目撃が続く。一昨日と昨日は、高齢者ら7人が相次いで襲われ、負傷した。県は出没注意報を今月、警戒情報に切り替えたばかり。この警報が出されるのは10年ぶりという。小学生はクマ除(よ)けの鈴をぶら下げて登下校し、警官らが遠巻きに見守る
▼大井さんによると、クマはもともと臆病な動物。里へ迷い出るのは、枝に残ったカキや舍てられた食品に誘われただけ。多くのクマにとって人間との遭遇など生涯に一度あるかないか。「人を襲ったり、店に逃げ込んだりするのはパニックに陥ったからです」
▼本紙の地域版によると、秋田や新潟では今月、住民がクマに襲われて亡くなっている。住宅街や自宅そばの畑に猛獣がぬっと現れるなどだれに予測できよう。その恐怖、ご遺族の无念を思うと、胸が苦しくなる
▼人にとってもクマにとっても接近そのものがこの上ない不運であろう。冬眠の季節はもうすぐそこ。どうかもう、出合い頭の悲劇が起きませんように。