書評:サマセット・モームの「月と六ペンス」steemCreated with Sketch.

in japanese •  7 years ago  (edited)

皆さん、お疲れさまです。

今回はちょっと書評でも書こうと思います。

書評と書くとちょっと大仰ですが、ようするに読書感想文ですね。

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初の書評をするのはこちら。

サマセット・モーム作の「月と六ペンス」
イギリス近代古典文学の名作にして、餅だんごの愛読書でもあります。

◼️あらすじ


主人公はチャールズ・ストリックランドという絵描きを目指す男です。

元々は証券会社で働いていた男ですが、ある日突然絵描きになることを目指します。
年齢は30近く、すでに妻子までいる身の上。

趣味で絵を描くならばともかく、所帯を持つ身で本気で画家を目指すという家族からしてみれば迷惑極まりない行動を開始します。

周囲はストリックランドを止めようとしますが、結局彼の決意を変えることは叶わず、ストリックランドは家族を捨て、絵を描くために生き始めます。

◼️解説


ここまでが序盤の大まかなあらすじです。

あらすじだけを見たらストリックランドはクズ人間です。
というか実際クズです。なにせ17年連れ添った妻を絵のために捨てることを一切躊躇なく行う男です。

しかしその迷いのなさにはいっそ清々しさすら感じ、ある種不思議な魅力のある男でもあります。

この風変わりな男、ストリックランドには一応モデルがいます。
それが19世紀に活躍したポスト印象派の画家ポール・ゴーギャンです。

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*ゴーギャンの自画像

ストリックランドと同じく、ゴーギャンも画家になる前は証券会社で働いていました。およそ11年間に渡り実業家として成功し、それなりの収入を得ていたようです。

そんな安定した人生を送っていたゴーギャンが絵を描き始めたのは、1873年頃から。
彼が25歳の時でした。

ストリックランドのモデルだけあって、彼も絵を始めた時期は他の有名画家に比べると遅く、25歳からになります。最初は趣味で始めていた絵画でしたが、株式市場が大暴落し収入が激減したことで、ゴーギャンは自分で描いた絵で収入を得ることを考えました。

この辺りストリックランドとは別で、ストリックランドが突然画家を目指し始めたのに対し、ゴーギャンは初めは止むに止まれぬ理由というものがありました。
この辺りはさすがに小説。展開が劇的です。

当然ながら現実でもフィクションにおいても、絵で生計を立てることは難しくゴーギャン、そして彼をモデルとして主人公ストリックランドも絵を生業にしてからは困窮した生活を行うことになります。

物語の当初、ストリックランドの絵は本当に認められず、周囲からは嘲笑すらされます。
ストリックランドの絵は奇抜かつ風変わりで、物語内の時代においては下手な絵としか思われなかったからです。

ご参考までにモデルのゴーギャンの絵をどうぞ。

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色使いがとても綺麗ですが、独特な絵柄に色使い、それに当時の風潮など、様々な事情があり当時は受け入れられなかったのかもしれません。
ゴーギャンの絵が認められるのは、彼の死後のことになります。

ストリックランドのモデルであるゴーギャンはポスト印象派の画家です。
当時、ポスト印象派(画家独自の視点で美学を追求)の受容はなく、世間からは全く認められませんでした。ゴーギャンと同じポスト印象派のフィンセント・ファン・ゴッホの当時の世の中の扱いを考えれば、どれだけポスト印象派が受け入れられなかったがわかると思います。

そうした現実世界の事情もあり、この現実を下地にした「月と六ペンス」においても、ゴーギャンのモデルであるストリックランドも、物語当初、周囲の人間には全く認められませんでした。

ですが、ストリックランドは天才でした。
物語が進むなかで絵の理解者や友人が表れ、少しずつストリックランドが認められていく展開は胸に熱いものを感じさせます。

物語の終盤、ストリックランドはこれまで誰も見たことがないような芸術の境地に辿り着きます。

しかし、「月と六ペンス」は絵画ではなく、絵も色もない小説でしかありません。
小説を読み切ったとしても、読者はストリックランドがどんな絵を描いたのか見ることは叶いません。せいぜいモデルであるゴーギャンの絵を元に想像を巡らせるだけです。

ですがそれこそが小説の楽しみです。
読者1人1人が自分にとっての最高の絵を思い浮かべる。
きっと1つとして同じ絵を思い浮かべることはないでしょう。
まさに小説の醍醐味です。

その小説の醍醐味をこの上なく楽しむことが出来る。
それが「月と六ペンス」という小説の魅力です。

以上、餅だんごの初めての書評でした。
拙い内容ですが「月と六ペンス」に興味を持って頂ければ幸いです。

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「月と6ペンス」、一時期はこの本しか頭にないほど好きでした。そして @motidango さん、書評お上手ですね!ストリックランドの一風変わった性格のとりこにもなりました。クズなはずなのにですね(笑)。

ストリックランドは本当不思議な魅力がありますよね。何より自分の目的に真っ直ぐな姿勢が格好良い。クズだけどちょっと憧れちゃう面があるんですよね。