こんにちは。瀬潟です。昨日に引き続いて、「スマート林業」について紹介します。今日はスマート林業の実践例について簡単に触れたいと思います。
〇スマート林業実践事例
本章では、加藤(2018)(6) 及び堀澤正彦(2018)(7) を参考にしながら、スマート林業の実践事例を紹介する。信州大学農学部の加藤正人教授(森林計測・計画学)はスマート林業の実現に向け、地域のステークホルダーや事業体と共同で多くの実証研究に取り組んでいる。信州大学を中心として構成される「LSによるスマート精密林業コンソーシアム」の名において、「レーザーセンシング情報を使用した持続的なスマート精密林業技術の開発」に掛かる研究が行われている。本コンソーシアムには、信州大学の他、北信州森林組合、アジア航測株式会社、株式会社小松製作所が参画し、長野県北信州森林組合管内、長野県中信森林管理署管内、信州大学農学部構内演習林において実証研究を実施している。
北信州森林組合では、航空レーザ計測データの活用により高精度地形情報の利用を実現している(下図)。以下、図はすべて堀澤(2018)より引用した。
また、ICT機器を使用することによる収穫作業の情報化に挑戦している(下図)。
ICTの活用によって原木や製材に関する情報が一元管理され、素材生産者・流通加工業者・需要者間での情報の共有が容易になることが期待されている。
本森林組合では、LS(レーザーセンシング)情報とICTを活用することにより、他産業並みの品質管理とSCM体制の構築を目指している(下図)。
〇今後の課題
山奥においてはIoTやICT、ネットワーク回線が通常のように動作しないという懸念はある。しかしながら、機器同士の接続等、簡易なものにおいては有効活用ができると思われる。
また、実際には川下側(需要者側)が他産業のような品質管理やサプライチェーン・マネジメントを望んでいないという指摘がある。他産業においてはQCD管理(品質:Quality, コスト:Cost, 納期:Delivery)を行うことがすでに当たり前であるが、林業においてはそうでない。研究レベルで品質管理やSCM構築は進めてはいるが、実際に高度な流通経路を構築する必要性を、需要者側が感じていない可能性がある。
さらに、現状としてはサプライチェーン全体にわたる「スマート化」を実現するのは困難であり、実際の活用としては森林情報のクラウド化程度にとどまっている。
〇引用文献
(6)加藤正人(2018)日本林業の強化策-レーザーセンシングによるICTスマート精密林業-.『山林』,No.1608, 大日本山林会.
(7)堀澤正彦(2018)ICT活用とSCMシステム構築の取り組み~スマート林業の実装に向けて~. 未来投資会議 構造改革徹底推進会合「地域経済・インフラ」会合(農林水産業)(第9回)資料3.
〇その他参考資料
長谷川尚史(2018)林業イノベーションの方向性.『山林』, No.1598, p.2-10, 大日本山林会.
木村穣(2018)今、なぜICT化なのか?.『山林』, No. 1604, p.38-41, 大日本山林会.
北河博康(2018)ロボットビジネスで林業の活性化を図る-ロボット×AI×IoTを活用した「儲かる林業」の実現に向けて-.『山林』, No.1607, 大日本山林会.
全国林業改良普及協会(2018)『現代林業』, p.1-31, 全国林業普改良普及協会.
日本林業調査会(2017)『林政ニュース』, 第565号, p.7-9.
日本林業調査会(2018)『林政ニュース』, 第576号, p.21-22.
日本林業経営者協会(2017)『杣径』, No. 47, p.1-18.
鹿又秀聡(2017)森林GISのクラウド化に関する現状と展望.『林業経済』, Vol.70, No.7, p.11-27.
松村直人・野々田稔郎(2015)スマート林業を実現する新たな森林管理システムe-forestの設計. 『三重大学大学院生物資源学研究科紀要』, 第41号, p.35-42.
中村尚・鈴木仁・山田浩行(2016)スマート林業に関わる先進事例調査とビジネスモデルの展望.『森林科学』, 第78巻, p.36-38.
林野庁(2017).『平成28年度森林・林業白書』.
それでは今回はこの辺で失礼します。お付き合いありがとうございました。