プロ野球のセ、パ両リーグが25日に開幕する。新型コロナウイルス感染拡大で観客数制限が続いた中、今年は3年ぶりに入場制限なしで満員のファンを迎えられる球春の到来。ようやく戻ってくる日常への「一歩」に期待も高まっている。
外野席上部を取り囲むようにのびるメインビジョンは全長約125・6メートル、面積約1050平方メートルで単体面積としては国内球場最大級――。巨人が本拠地を置く東京ドームは大改修が実施され、この春リニューアルオープンした。
球場内の売店などは新型コロナ対策も兼ねて「完全キャッシュレス化」して現金は電子マネーの購入以外は使用不可に。顔認証による入場や決済などのサービスも本格的運用を目指す。球団などは「ジャイアンツの世界を五感で存分にお楽しみいただき、新しい観戦体験を提供できるよう取り組む」と意気込む。
西武も本拠地・ベルーナドーム内の飲食店の混雑や待ち時間解消を目指して、モバイルオーダーシステムを本格導入する。スマートフォンで注文、決済を済ませると、スタッフが座席まで商品を届けてくれるサービス。注文から受け取りまで自席で完結するため、新型コロナ感染対策としても効果が期待される。
2020年春から世界で拡大した新型コロナの影響は、プロ野球界も直撃した。各球団にとって痛かったのが観客の入場制限だ。同年の開幕は約3カ月遅れ、史上初めての無観客開催となった。その後も上限付きの有観客、無観客開催を繰り返し、収益の柱だったチケット収入は激減した。日本野球機構(NPB)によると、コロナ前の19年度の入場者数は1試合平均3万929人だったが、20年度は6699人、21年度は9138人と落ち込んだ。
先が見えない中で、各球団はファンが安心して観戦できる環境を模索しながら「コロナ後」を見据えた取り組みにも着手。オンラインを活用した交流イベントやユーチューブ、SNSを駆使した情報発信などに力を入れ、ファンが離れないように工夫を凝らしてきた。ある球団関係者は「観客数の上限がなくなる今こそ、コロナ下でのプロ野球の新しい楽しみ方を体感し、再び関心を高めてもらう絶好の機会になる」と自信を見せる。
ファンの間でも満員の球場を待ちわびる声は大きい。ソフトバンクファンが集う福岡市早良区の居酒屋「和気あいあい」の店主、坂田浩司さん(69)は、前身のダイエー時代からのファン。店内には毎シーズンの期間限定ユニホームなどのグッズが所狭しと並ぶ。昨季は2度、店休日に球場で観戦できるチャンスがあったが、いずれも無観客となった。「今年はぜひ行きたい」と言葉が弾む。
店ではファンがテレビで試合を見て喜怒哀楽を表現し合うのが日常だ。現在は感染防止のためにカウンターにパネルが置かれるが、「スポーツは共通の話題を持つ人同士が一緒に見るのが楽しい」。
マスクの着用や大声を出さないことなど感染防止対策は継続しながら、多くの観客を迎え入れる今季。満員の熱気に満ちたスタジアムが選手たちを後押しする。